キノコと森のつながり。沢から森へ旅するカエル。
2024年 秋
雨上がりの高尾100年の森。11月後半になっても、紅葉はまだわずかですが、黄色に色づいた木が見られるようになりました。しっとりと湿った森では、さまざまなキノコたちも出てきています。カエルたちも落ち葉の上を動き回っています。晩秋の生き物たちのにぎわいです。森の中で、キノコやカエルなど、生き物たちの暮らしを見てみましょう。

一人じゃないって素敵なことね
遊歩道で見つけたのはキノコの集団。丸い塊がひときわ目立っていました。ホコリタケです。ホコリタケは、雨のあとにたくさん現れることから「雨の妖精」とか、地面では輪状に生えることもあり、「妖精の輪」とも呼ばれます。
ホコリタケの根元はどうなっているか知りたくて、下を少し掘ってみると、白い糸がついていました。この糸は菌糸と呼ばれています。菌糸は増えるときに同心円状に広がっていくことが多いので、地表に出てくるときには輪のようになるのだそうです。菌糸でみんながつながっているとは。なるほど妖精の輪の名に納得です。
山の尾根にもキノコはあるかどうか確かめようと、登ってみました。尾根は細いので、雨風が吹きさらしになるせいか、土が少なく、石ころだらけの地面でした。そこで見つけたのは、1本だけの大きな白いキノコ。やせた尾根なのに充分な栄養がとれるのでしょうか。何か秘密がありそうです。キノコの根元にある落ち葉をかきわけてみると、出てきたのは白い塊のようにふくらんだ根っこ。菌糸体とよばれる菌糸の集まりです。木の根元にある石ころの下には木の細い根が一面に広がっていて、キノコの菌糸は木の根とつながっていたのです。キノコは木が作った糖分をもらい、木はキノコから土壌中の栄養をもらって育ちます。まさに物々交換ですね。1本しかないキノコだと思っていたら、しっかり木といっしょに暮らしていたのですね。



旅に出るぞ!すみかを変える動物たち
沢の近くにある森の中、歩いていた先にピョンと跳んだのは1匹のカエル。ヤマアカガエルです。人の気配に気づいたのでしょう。見つからないように、じっとしていました。ヤマアカガエルは、日中には体の乾きを避けて枯葉の下や岩の隙間などに隠れています。今日は、雨の後だったので、動き回って小さな虫やクモなどの餌を探していたのでしょう。
ヤマアカガエルの大人はまだ寒い春先に水辺に集まって、雌は水の中に1,000個を超える黒い卵の塊を産み付けます。産卵後は沢から離れ、森の中で過ごすことが多くなります。一方、今年に生まれた子ガエルは水の中から陸に上がっても、沢からほとんど離れず、岸辺で暮らしています。でも、秋になると、子ガエルも餌を求めて森の中へ入っていきます。餌が少ないと沢から遠く離れた森の奥まで入っていくこともあるそうです。
ヤマアカガエルは大人になると一生の大半を森の中で過ごしますが、早春の産卵の時だけ森を出て、沢に集まってくるのです。ヤマアカガエルが生きていくためには、餌の豊富な森と水の涸れない沢の両方の環境が必要なのですね。
枯れ葉に似た色で、隠れ上手なヤマアカガエル。森の中で無事に暮らし、冬眠を経て、また沢に戻って来られますようにと、静かに見送りました。
管理でよみがえる森の動植物たち
木々が伐採されて高尾100年の森は4年目の秋。日当たりがよく、水はけのよい斜面地では、秋に咲く花たちが見られるようになりました。小さな淡紅色の唇形花(くちびるのような形をした花)を咲かせていたのはキツネノマゴ。この植物が育つには、十分な陽の光が必要なので、下草刈り後の明るい林に現れたのでしょう。夏の終わりから咲き始めますが、1本の花序のなかで花が少しずつ咲いていくので花期は長く、秋まで見ることができます。
濃い紫色の花をつけるヤマハッカもちらほら見られ、淡い紫色の花をつけるイヌコウジュも広い範囲で育っていました。ヤマハッカやイヌコウジュは日光がある程度必要ですが、日陰も好むという半日陰の場所で育ちやすい植物です。日の当たる環境が多様になったことで、それぞれの環境に適した植物が育つことができ多様な植物が見られるようになりました。
間伐後に明るい落葉広葉樹林になった空間には、種類の異なる鳥たちが群れていました。シジュウカラやメジロたちです。秋から冬にかけて、異なる種類の鳥たちがもっと集まりだします。混群(こんぐん)と呼ばれます。昆虫やクモ、果実など餌の種類が異なっても、群れていることで、タカなどの天敵に気づきやすい利点があるようです。間伐された結果、秋の森では、日当たりの良い場所を好む植物とともに、餌を求めて動きやすい間伐林を好む鳥たちも現れるようになり、もうすっかり、里山を代表する落葉広葉樹林の生き物たちの世界になりました。




