ニホンザルと果実のつながり。水の中のカワゲラ。
2024年 冬
遠くの空が林を通して見え、林の下には落ち葉が重なっていました。高尾100年の森は、すっかり冬のたたずまい。寒い冬、どんな生き物がどのように暮らしているのでしょうか。ニホンザルの食べ物と、沢の中にすむカワゲラに注目し、冬ならではの生き物たちの姿を見てみましょう。

一人じゃないって素敵なことね
ニホンザルがやってきました。何かを探しているようです。手を伸ばしたかと思うと、手に持ったのは黒っぽいタネ。でも、ポイッと放ってしまいました。オニグルミでした。食べようとしても硬い果実なので、あきらめたようです。ニホンザルにとって本来、オニグルミは脂肪分の多い魅力的な食べ物。でも、落ちたばかりの実はまだ硬い殻のままです。春になると、もろくなるので、種子の殻は壊しやすくなるのです。だれにも食べられずに春まで残っていたら、そのときは食べられることでしょう。
この時期、森の中で目立つようにたくさん実っていたのはフユイチゴ。オニグルミのおいしさには劣るかもしれませんが、背に腹は代えられません。フユイチゴをパクパク食べ始めました。脂肪分は少ないのですが、たくさん食べることで、お腹はもちそうです。フユイチゴからすれば、実はどんどん食べられて、なくなっていきますが、大丈夫でしょうか。でも安心。ニホンザルにまるごと食べられるので、種子だけ消化されず糞(ふん)に混じって森中にばらまかれるのです。
ニホンザルはフユイチゴを食べることができ、フユイチゴはニホンザルに種子をいろいろな場所に運んでもらえ、互いに利益を得られる関係ができています。これからも高尾100年の森では、ニホンザルとフユイチゴの結びつきが、ずっと続いていきそうです。



旅に出るぞ!すみかを変える動物たち
高尾100年の森の山地には水の流れる小さな沢があります。冬でも生き物がいるかどうか、小石を手にもってジャブジャブしながら、かき混ぜてみました。あっ、何か石の裏から離れていきます。体長3cmほどのカワゲラの幼虫でした。頭と背中の白字の複雑な模様が何か神秘的です。山のきれいな沢にすむオオヤマカワゲラでした。
オオヤマカワゲラの幼虫はおおよそ3年の間、水の中で暮らすので、沢で見られるのは体長1cmから3cmぐらいのものまでさまざまです。小さな体のときは藻類などの草食が中心で、大きな体になると他の水生昆虫を食べる肉食になります。育っていくごとに食べ物の種類が変わっていくのですね。
オオヤマカワゲラの幼虫は3年を経て、翌年の初夏には陸に上がり、羽化した成虫は森への旅を始めます。幼虫時代は3年もあるのに成虫は短命です。わずか2週間ほどの寿命しかありません。何も食べることもしないのです。なぜなら、成虫の口は退化しているからです。森の中で雄と雌が出会い、わずかな時間を過ごします。オオヤマカワゲラの成虫にとって、森の中は大切なときを過ごすための場所なんですね。成虫の雌は再び沢に産卵のために戻りますが、雄は二度と沢に戻ることなく、森の中が旅の最後のすみかとなっていくのです。



管理でよみがえる森の動植物たち
木々が伐採された高尾100年の森は4年目の冬を迎えました。寒く吹きさらしの林の下では、花や虫やクモたちの姿はありません。陽の光が届く、明るくなった林の下では、ヤブコウジの実がところどころに付いていました。種子から芽生えて育ち、冬に実をつけたようです。同じく赤い実をつけているのはフユイチゴ。冬でも緑の葉をつけ、晩秋から冬にかけて赤く熟す果実は、見た目にも美しく昔は食用としても親しまれていた苺です。
地肌が出ているところで見つけたのはニホンジカとノウサギの糞(ふん)。開けた林の中では草の若芽が出ており、草食の動物たちの格好の餌場となったようです。これまで森の中を歩いていてもノウサギの糞はみつかりませんでしたが、地肌が出ているような明るい草原のような環境がノウサギに適していたのでしょう。しかも、ノウサギは天敵であるテンに気づいて、すぐに樹林に逃げ込めるような見通しのよい場所になっていることも餌場の条件です。ニホンジカも森林性の動物ですが、草を食べるときでも、森林から完全に離れて生活することはなく、樹林の中に草地が入り込んだ環境を好むようです。冬になって、ほ乳類も訪れるようになり、豊かな生態系を育む森へと成長していました。



