ぽかぽか陽気に誘われて、息吹きを感じる森散歩

森のお便り

2021年 春

今年は春が早いですね。4月に入ったばかりの森も、あたたかな陽射しにつつまれています。そんな時、元気になるのは人間だけではありません。植物たちが一斉に花をひらき、やわらかな新芽を萌え出しています。鳥たちやカエルなど、いろいろな動物が相手をさがし、春風にのせて恋の歌をうたいます。生き物たちの息吹につつまれた森を、目で耳で楽しみましょう!

森の音図鑑~春~

森の谷間で、わき水がちょろちょろと流れ出てくる穴を見つけました。近づいてみると、その中から「キュキュウ、ワッワン」という声が聞こえます。「小犬が鳴いているみたい!」一緒にいた森のスタッフの感想ですが、いったい何が鳴いているのでしょう?

この声の主はタゴガエル。森の中で時々見かけるカエルですが、オタマジャクシを見たことは一度もありません。なぜオタマジャクシがいないのか?その理由は穴の中から聞こえる声と関係があります。

春先、オスはわき水がしみ出るすき間にもぐり込んで鳴き声でメスを呼び、ペアになったメスはすき間で卵を産みます。穴の中から聞こえてきたのは、オスのラブソングというわけですね。この卵には栄養がたっぷりと蓄えられていて、何とオタマジャクシは何も食べずに卵の栄養だけで成長し、カエルになってから外の世界に出てきます。森の水たまりでオタマジャクシを見ないのも納得です。

こんなおもしろいカエルが生きていけるのは、豊かな森がきれいなわき水を絶えず育んでくれるからこそ。タゴガエルは森の健康度のバロメーターでもあります。

森の落とし物~植物たちの衣替え~

今年は異常なまでの早さで春が進んでいますね。衣替えを早々に済ませた人も多いのではないでしょうか。4月上旬の高尾100年の森は、例年ならヤマザクラの淡いピンクにつつまれていますが、今年はほとんど花が散ってしまっていました。その代わり、木々のこずえは若い葉が萌え出て、やさしい緑色につつまれています。

そんなヤマザクラの下を通りかかった時、赤い小さな紙吹雪みたいなものがたくさん落ちているのに気がつきました。これは寒い冬の間、まだ小さな花や葉を包みこみ、大切に守ってきた「鱗片(りんぺん:葉っぱが変形したもの)」です。役割を終えて、落ちてきたのです。隣のホオノキの根元には、青紫色の皮がたくさん落ちています。以前紹介したホオノキの大きな冬芽※1、これを包んでいた一番外側の鱗片です。厚くて大きく、まるでレザーコートです。よく見るとそのまわりに少し柔らかいタイプが落ちています。こちらは内側に着るフリースやシャツと言えばよいでしょうか。

春本番の高尾100年の森で、植物たちの衣替えが急ピッチで進んでいます。

ヤマザクラのりん片
ホオノキのりん片

管理でよみがえる森の動植物たち

この春、高尾100年の森は大きく様変わりしました。ウッドデッキ周りにベンチや炊事場ができ、キャンプのしやすい森になっています。それに合わせて、広場横のやぶになってしまった場所を刈り払い、明るい環境を好む動植物を再生させることにしました。今年そして来年と、この場所がどのように変わっていくのか、シリーズでお伝えしたいと思います。

今日お伝えするのは、やぶを切り開く前の状態。ビフォーアフターのビフォーです。この写真を見てください。

やぶの外観
やぶの内側

いまのやぶは大人の背丈をゆうに超えるアズマネザサが密生し、ササの上にはヌルデやヤマグワなどの樹木が顔を出しています。やぶの中に入ろうとすると、トゲを持ったモミジイチゴやサンショウが立ちはだかり、アケビやフジのつるが行く手を阻みます。一歩進むのも大変で、まるでジャングルを進む探検隊の気分です。そんなやぶの内側は、茶色い枯れ葉が地面を覆っています。陽ざしが入らず暗いため、植物もあまり生えず、チョウやアブのような動物たちの姿も見られません。

植物も動物も少ない密生したやぶ。刈り払うと一体どうなるのでしょうか、これからをお楽しみに!