涼しく森を楽しむ方法、教えます

森のお便り

2019年 夏

うだるような暑さが続きますね。いつもは快適な森の中ですら、しばらくするとじっとりと汗がにじんできます。そんな時は木かげを流れる沢で「涼」を楽しんではいかがでしょう。沢沿いは空気がひんやり心地よく、天然のクーラーです。思いきってくつを脱ぎ、沢の水に足をつけたら、もう最高です!

涼をとりながら沢沿いの生き物たちをゆっくり観察。暑い夏のお出かけにおススメです。

管理でよみがえる森の動植物たち「沢の生き物」編

涼しさにひかれて沢をのぞき込んでみると、水の中をサッと何かが動きました。10cmほどの細い体をした魚、アブラハヤの群れです。名前のとおり体がヌメっとしているのが特徴です。

アブラハヤ

岸辺に目を移すと、落ち葉の下へ潜り込もうとするサワガニや、ピョンピョンとびはねて逃げていくヤマアカガエルなど、いろいろな生き物が沢に集まっていることに気がつきます。

サワガニ
ヤマアカガエル

川に入ってゴロゴロした石をそっと持ち上げると、運が良ければ、いかつい顔で獲物が来るのを待ち伏せているカジカを見つけられます。もともとは八王子市内でもたくさんのカジカが見られましたが、水が汚れるなど環境が悪くなっために数が減り、今では都が絶滅危惧種に指定しています。

カジカ

カジカを探して石を持ち上げていると、カワゲラ類やトンボ類などの水生昆虫がはい出してきました。どうやらカジカなどの魚たちは、この水生昆虫を狙っているようです。水生昆虫はやがて羽化して空へと飛びたつと、こんどは陸で暮らすカエルや鳥たちの大切なエサになります。

森から流れ出すきれいな水と落ち葉は、沢の生き物たちをとおして、たくさんの陸の生き物たちをも育んでいるのですね。

オオヤマカワゲラ
フタツメカワゲラ
ミルンヤンマ
オジロサナエ(左)&ダビドサナエ(中、右)
アサヒナカワトンボ

森の食材図鑑「森のドリンク」

夏バテで食欲がない時は、森の植物を飲み物にして楽しんでみてはいかがでしょう。森を歩けば、ハーブティーの材料となる植物に出会うことができます。

たとえば、高級菓子に付いてくる楊枝(ようじ)の素材として有名な『クロモジ』、道ばたに生えていて草餅などに使われる『ヨモギ』、臭いとか抜いても抜いても生えてくると嫌われている『ドクダミ』、シソのような葉をした『レモンエゴマ』です。

森のハーブティーでのどをうるおし、疲れた体をリフレッシュしましょう。

郷土の文化と森の生き物たち「海外とつながる八王子の植物」編

八王子はかつて「桑都(そうと)」と呼ばれ、海外とのつながりが深い街でした。高尾100年の森を歩くと、当時を思い起こさせる植物に出会うことができます。

コゴメウツギは梅雨前にかわいい花をつける低木ですが、小さくてあまり目立ちません。ただ、細かく分かれた枝はカイコがまゆを作るのにぴったりだったため、「まぶし(まゆづくりをさせるための道具)」として養蚕農家の方に使われていました。

コゴメウツギ

そのコゴメウツギとは反対に、大輪の花を咲かせるのがヤマユリです。美しく香りもよいユリの仲間の花は、日本だけでなく海外でも愛され、聖母マリアに捧げる花としても有名です。明治維新後、横浜が開港されると、欧州のユリに比べて華やかな日本のヤマユリやカノコユリなどを、プラントハンターがこぞって買い求めたそうです。そのため、八王子市内でも輸出用の百合根の栽培が盛んになり、農家の大事な副業となりました。森の自然から日本の近代化に思いをはせる、こんな楽しみ方も面白いものです。

ヤマユリ

高尾100年の森で見つけた「スローな生き物」

ゆっくりとしか動かない生き物と言えば何でしょう?カメやナマケモノとともに名前が挙がるのが、カタツムリではないでしょうか。カタツムリやその仲間のナメクジは葉や木の上を滑るように移動しますが、1分間見ていても10cmも進まないほどのスローな生き物です。

「カタツムリのカラをとればナメクジになる」とか「カタツムリが(ヤドカリのように)引越しする際にカラをぬいだ姿がナメクジ」と誤解している人がいますが、それは大まちがい。カタツムリはカラをとったら死んでしまいます。乾燥や敵から身を守るため、カタツムリは体のサイズに合わせて同じカラを増築し、一生の間、使い続けます。カタツムリの赤ちゃんのカラは1~2周程度しか巻いていませんが、大人は5~6周ほど巻いているのが、増築の証拠です。

一方、カラを退化させてしまったのがナメクジです。カラがないと困るのでは?と思いますが、カラを作るためのカルシウムを集める必要がなかったり、狭い場所にもカラを気にせず入れたり、メリットもあるようです。そういえば、海の中に生きるタコやイカも、カラを無くした貝の仲間。そう考えると、ナメクジとタコ・イカはカラを無くすという同じ道を歩む同志なのですね。

ミスジマイマイ
キセルガイ