夏の森は意外と涼しい?はたしてどんな森?
2022年 夏
夏の陽ざしが照りつける道から一歩森の中の小道に入ると、涼しくふと一息つけます。青々と茂る樹冠の葉っぱが大きなパラソルのように日陰の役割をしてくれるからです。流れのある沢に沿った道であれば、ひんやりとした空気と心地良い沢のせせらぎで、あなたをもっと涼しい気分にさせてくれることでしょう。
夏の森には、どんな生き物たちとの出会いがあるのか、夏の森をあなた自身が確かめに、高尾100年の森へ出かけてみませんか。
自分で語ろう森の気持ち「マムシグサの実」
私は高尾100年の森の精。四季折々の森の生き物たちの姿を通して、森の気持ちをお届けするレポーターだ。
緑の葉が生い茂る森の中を見渡してみると、緑色の葉の中で赤い色が目立っている草がある。トウモロコシの実を赤くしたような赤い実をつけたマムシグサだ。赤い実に見とれていると、マムシグサの近くにヒヨドリがやってきた。実を食べにきたのだろうか。マムシグサの実に止まり、実を飲み込まずに噛むような仕草を見せた後、そのうちの一粒だけ飲み込んで飛び去っていった。
どうやらヒヨドリは、実を噛むことで柔らかくなった果実を選んでいるようだ。美味しそうなマムシグサには、じつはシュウ酸カルシウムという毒がある。どういうわけかヒヨドリには毒が効かないようだが、それでも毒が多い未熟な果実を避け、完熟した果実を選んでいるのかもしれない。
マムシグサは目立つ赤い実をつけ、鳥以外に食べられないように毒を持つ。ヒヨドリは赤い実を探し、毒を避けて慎重に食べる。そしてヒヨドリが食べたマムシグサの種子は、フンといっしょに運ばれて森へと広がっていく。マムシグサとヒヨドリのつながり、深いなあ。
森の中を得意に飛ぶわけは?「森の中を旋回するカラスアゲハ」
山の斜面を横切る周遊コースを歩いていると、キラリと光る大きなチョウが、上下に素早く動きながら目の前を横切りました。青く光った翅が美しい、カラスアゲハです。
飛んでいる様子をじっと見てみましょう。地上から3~5mの高さを上や下に、こきざみな羽ばたきをしたかと思うと、滑翔※をして目まぐるしく旋回しながら飛び回っています。ときおり、葉の上で青い翅を広げて止まりますが、それもほんのわずかな時間だけで、すぐに飛び立ちます。
花の蜜を吸うわけでもないのに、なぜこんなにせわしなく飛び回るのでしょうか?じつはこの行動は、雄がなわばりを守るためのパトロールなのです。「蝶道(ちょうどう)」と呼ばれるなわばり一周コースが決まっていて、チョウのオスたちはこのコースを飛んで侵入者を追払っていたのです。
オスたちは時折、水を飲むために沢に降りることがあります。今回見ていたチョウも沢の浅瀬で一心に水を飲み始めました。近づくと驚いたかのように、森の中の蝶道へ飛び去ってしまいました。休憩を邪魔してしまったかな、おつとめご苦労さま。
-
※滑翔(かっしょう)
羽ばたきを止めて、空を滑るように水平に飛ぶこと。
管理でよみがえる森の動植物たち
藪を切り開いてから、1年が過ぎた夏。土がまだ目立つ地面ですが、草も芽生え始めていました。今回は昆虫に注目して、見てみましょう。
まず見つけたのは、羽のないバッタの仲間、アオフキバッタ。この仲間は成虫になっても羽が小さいのですが、その中でもこのアオフキバッタは羽がまったくないように見えます。フキの葉を好むことから名前が付いたそうですが、この刈り払い跡地にフキはまだみられません。再生してきたクズの葉などを目当てに、やってきたのかもしれません。
葉っぱの上に、触覚が長くて背中に一本筋が通った小さなキリギリス、セスジツユムシを見つけました。緑色と茶色の個体がいましたが、オスとメスというわけではないそうです。セスジツユムシは森林の周辺にあるツル植物の草むらを好むので、刈り払い跡地の草むらにやってきたのでしょう。
地面の浅いくぼみから出てきたのはエンマコオロギ。体に白い輪の模様があり、翅もないのが幼虫の特徴です。日中は草地や地面のくぼ地などに潜んでいるのですが、草がまだ少ないので見つかりました。
これらの昆虫たちは、森の中では姿を見かけません。森と接した場所に草原という新しい環境ができることで増えた種類です。こうした昆虫が増えてくると、それを食べに天敵であるカマキリや、クモ、カエル、トカゲたちもやってくることでしょう。これからの刈り払い跡地にどんな生き物がやって来るか、期待して待ってみましょう!