探しにいこう。春の花に来る虫と、沢から森へ旅立つ虫。

森のお便り

2024年 春

新緑の高尾100年の森
新緑の高尾100年の森

高尾100年の森はすっかり春の陽気です。厳しい冬を乗り越えた植物たちが花を咲かせ、鮮やかな緑であふれます。途切れぎみだった沢の水もさらさらと流れるようになっていました。森の中で咲き始めた花々と、沢の生き物たちの暮らしを見てみましょう。

一人じゃないって素敵なことね

真っ先に目に飛び込んできたものは、鮮やかな白色のクサイチゴの花。春の森の中でひときわ目立つように咲いています。クサイチゴの花は一カ所に集まって咲いているわけではなく、地面に広がって点々と一輪ずつ咲いています。まるで一人ずつ離れて咲いているかのよう。さみしくないかな。でも、安心。しばらくすると、一つの花にやってきたのは1匹のハチ。ハチは花の真ん中にある雌しべのかたまりにもぐりはじめています。

離れた別の花にもチョウやバッタがやってきました。今まで静かだったクサイチゴの花々が、あっというまににぎやかに。クサイチゴの花々はおいしい蜜や花粉を出して、虫たちを呼んでいたのですね。一つの花で食事をすませた虫たちは、となりの花に移り、しばらくすると離れた別の花に飛んでいきます。虫たちは花から花へ花粉を運んでいたのです。

クサイチゴの花たちは咲いている間、虫たちの訪れを待っていました。クサイチゴはいろいろな虫たちを仲間として迎え、自分たちの命をつないでいたのですね。さまざまな虫たちのおかげで、初夏になるとイチゴが実ることでしょう。自然の営みの中で、多くの虫たちがなくてはならない存在として働いているのですね。

クサイチゴの花
クサイチゴの花
ニッポンヒゲナガハナバチ
ニッポンヒゲナガハナバチ
コマルハナバチ
コマルハナバチ
スジグロシロチョウ
スジグロシロチョウ
ヤブキリの幼虫
ヤブキリの幼虫

旅に出るぞ!すみかを変える動物たち

「石の裏に虫がいたよ!」。高尾100年の森を流れる沢に入り、水の中の小石をひっくり返してみました。水が滴る石の上で、体をよじらせていたのはカゲロウの幼虫。平べったい体をしているので、すぐに見つかりました。カゲロウは成虫になる前は幼虫として水の中で石の表面に付く小さな藻類(そうるい)などを食べてすごします。春は、カゲロウの幼虫が生まれ育った水の中から外に出て、羽化するころです。

羽化した成虫もいるかどうか、沢に沿って探してみました。石の上でじっと止まっていたのはカゲロウの若い成虫。羽化したばかりは未熟なので、じっとしたままです。しばらくして、岸辺近くの森の茂みに入って脱皮すると、さらに飛べるようになります。でもなぜ、沢から森へ飛び立つのでしょうか。羽化した雄の成虫はパートナーを探さなければならないのです。結婚するための旅のはじまりです。成虫の寿命は数時間から数日間だけ。成虫は口がほとんど退化しており、食物をとることはありません。森の中で雌に出会った雄はラッキーです。雄と出会った雌は沢に戻り、水の中に卵を産み落とします。

カゲロウの旅は楽ではありません。岸辺には鳥やクモが待ち構えているのです。決死の旅なのですね。でも、旅の途中で鳥やクモなどに食べられても、森にすむ鳥やクモたちの命をつなぐ大事な食糧の源(みなもと)にもなり、川と森をつなぐ役割も担っているのです。

高尾100年の森の間を流れる沢
高尾100年の森の間を流れる沢
タニガワカゲロウの仲間の幼虫
タニガワカゲロウの仲間の幼虫
羽化したばかりのクロタニガワカゲロウの成虫
羽化したばかりのクロタニガワカゲロウの成虫
クモの網にかかったクロタニガワカゲロウの成虫
クモの網にかかったクロタニガワカゲロウの成虫
沢で虫を探すキセキレイ
沢で虫を探すキセキレイ

管理でよみがえる森の動植物たち

木々が伐採されて4年目の春です。間伐により林内が明るい環境に変わり、それに合わせてさまざまな生き物たちが増えてきています。雑木林を代表するスミレのタチツボスミレ。3枚の葉を持つミツバツチグリ。破れた傘のような葉をもつヤブレガサ。いずれの植物も陽当たりのよい場所を好む草たちです。低木では新たに出現したのがニガイチゴ。陽当たりのよい間伐地の斜面をはうように生えていました。ニガイチゴの果実は初夏に熟すので、タヌキやテンが食べて、さらに森の中で増えていくことでしょう。黄色い翅(はね)をもつキタキチョウもやってきました。陽の当たる間伐跡地に生息し、春から姿を見せるチョウです。間伐地を飛びまわりながら、花の蜜を吸っていました。春に咲く花に訪れる昆虫はハナバチやハナアブだけでなく、チョウもやってくるようになりました。間伐4年後に初めて出会った生き物はヒメツチハンミョウ。成虫は草原に近くなった森の地面を歩いて移動し、植物を食べて暮らします。幼虫はハナバチの巣に入り込み、ハナバチの花粉団子を食べて成長する昆虫です。間伐された結果、陽当たりのよい場所を好む植物、さらにその植物を利用する動物、さらにその動物を利用する動物など、生き物のつながりが新たにできています。

タチツボスミレ
タチツボスミレ
ミツバツチグリ
ミツバツチグリ
ヤブレガサ
ヤブレガサ
ニガイチゴ
ニガイチゴ
キタキチョウ
キタキチョウ
ヒメツチハンミョウ
ヒメツチハンミョウ