雪につつまれた森は生き物探しの大チャンス!

森のお便り

2017年 冬

この冬、高尾の森は一面まっ白な雪につつまれた白銀の世界になりました。
寒いうえに雪に包まれてしまったら生き物は外に出てこないのでは?と思った人は、ぜひ森を訪れてみてください。
ぱっと見ただけでは生き物がいないように思えますが、すこし視点を変えてみると、人知れず森を歩く動物たちの足あとや寒い冬をこすための植物の工夫など、生き物たちの見えない暮らしぶりを見ることができます。

寒い冬だからこそ、しずかに森を楽しめる絶好の機会です。暖かい格好をして、さあ出かけましょう。

雪の上に穴があいているよ。だれの足あとだろう?

降り積もったまっさらな雪の上に「ばふっ!」とたおれこむ、そんな遊びをしたことはありませんか?
雪の高尾の森では、ふだんめったに出会うことのできない動物たちが残したあとをあちこちで見つけることができます。

2つのツメの形がはっきりした足あとはイノシシのもの。イノシシのツメはかたくて厚く、蹄(ひづめ)と呼ばれます。
イノシシは、ふだんは2本の蹄を使って歩くのですが、他にも蹄を持っています。写真の2つの蹄の下に、うすい2つの外向きに開いたあとが付いているのがわかりますか?
これは副蹄(ふくてい)という小さな蹄のあとです。ふつうの蹄よりも上についていて、急なしゃ面を降るときのすべり止めとして役に立つようです。

次の写真はノウサギの足あと。3つの細長いあとがついているのがわかります。右の1つは前足2つ分がくっついたあと、左側に上下に並んだあとは後ろ足のものです。
ウサギはぴょんととんで移動しますが、とんだ後はまず左右の前足を体の前にポンポンと着き、その前足を追いこすようにして両方の後ろ足をそろえて着地します。
写真では、小さな前足のあとがたてに並んで2つ(雪が深すぎたためか1つにつながっています)、その先に後ろ足のあとが横に並んで2つついているので、左下に向かって移動したことがわかりますね。

雪の上に残された足あとは、姿が見えない動物たちの存在や、その特ちょうを教えてくれる、寒い冬ならではのプレゼントです。

木の枝に何かひっかかっているよ。何だろう?

小鳥たちの鳴き声にひかれて上を見あげると、枝の間にテニスボールくらいの大きさのかたまりを見つけました。
何だろうと思い、そう眼鏡でのぞいてみると、細くさかれた木の皮やシュロのせんいが編みこまれ、外側が緑色のコケでおおわれていました。巣の大きさや素材などからして、メジロの巣のようです。

下の写真は昨冬に高尾の森でひろったメジロの巣です。春先に作られてから子育てを経て一年近くたっても形がきれいに残っています。どうしてメジロの巣はこんなに丈夫なのでしょうか。
春先、メジロは敵におそわれにくい高いこずえのY字型に分かれた枝の根元を選んで巣を作ります。
巣の素材は木の皮などですが、なんとメジロは取ってきたクモの糸を、接着ざいのように使って巣を作ります。しっかりした巣づくりの決め手はクモの糸だったようです。

こずえに葉のない冬こそ、足元だけでなく、上も向いて歩いてみてください。夏の間には木の葉にかくされていた鳥たちの生活が、少しずつ見えてくるかもしれません。

冬の間、木はねむっているの?

葉のない冬の樹木は、まるでかれているように見えます。しかし、小枝の先をじっくりと見てみると、小さなふくらみがたくさんついていることに気がつきます。
冬芽(ふゆめ)と呼ばれるこのふくらみは、春になると成長して葉や花になります。

下の写真はヤマウルシの冬芽。春に成長する葉が折りたたまれて、すぼめた手のように見えます。
冬が始まったころはまだこんな立派な冬芽は見られなかったので、寒い冬の間にも芽は成長しているようです。

細長い冬芽の両側にふくらんだ丸い冬芽がついた木を見つけました。
早春、他の木々がまだ葉を開いていないころに、いち早く黄色い花をさかせるアブラチャンです。他の木に先がけて花をさかせるため、アブラチャンは冬の間に花芽を大きく成長させているようです。

冬の木々はまったく活動していないようにも見えますが、実は厳しい冬をのりこえて春にいち早く活動するために、着々と準備を進めているのです。

環境まめ知識 雪が積もると若い木が育つ?

雪があまり積もっていない場所で、空っぽのドングリを見つけました。外側のカラがぐしゃりとつぶされて中身が無くなっているので、イノシシに食べられたようです。
ドングリは他の動物にとっても大事な食料。リスやネズミたちはエサの少ない冬にそなえて、秋の間にせっせとドングリをかくし場所に貯めこんでいます。

いろいろな動物たちに食べられてばかりで、ドングリのなる木は次の世代を残せるのでしょうか?
実は冬の間に積もる雪が、ドングリの強い味方になることがあります。「ブナ」は雪の多い日本海側の森に多く生える木です。この森には残念ながら生えていませんが、高尾山の中腹には大きなブナが何本も生えていて、三角すいの形をしたドングリを実らせます。
秋、ブナがそのドングリを地上に落とすと、それをねらって動物たちが集まります。しかし冬の日本海沿岸は、世界でも有数のごう雪地帯。厚く降り積もった雪がドングリをすっぽりとかくしてしまうため、動物たちは落ちたドングリをなかなか見つけることができません。

雪はエサを探す動物たちにとってはやっかいものですが、ブナにとっては若い木を育てるためになくてはならない存在のようです。