秋の気配につつまれた、高尾100年の森をのぞきませんか?
2021年 秋

夏らしくない天気が続いた今年の夏。高尾100年の森では9月も終わりに近いというのに、ツクツクボウシが森全体に響きわたる声で、元気いっぱいに鳴いていました。ただ、よく耳を澄ませてみると、涼やかな虫の音があちらこちらから聞こえてきます。
秋はこれからが本番です。虫の音、色とりどりの果実、そして紅葉。秋の気配につつまれながら、森を歩いてみませんか。
森の音図鑑~秋~
草の茂みから「シリシリシリシリ」という鳴き声が聞こえてきました。「誰が鳴いているのだろう?」と声の主を探していると…見つけました!つぶらな黒い瞳がかわいらしい「ササキリ」です。
こちらの姿が見えているようで、近づくとすぐに葉の裏側へと隠れてしまいます。なんとか近づき鳴く姿を観察すると、ササキリの翅(はね)がすごい速さで動き、そこから音が出ているのがわかります。ササキリやその仲間のキリギリス・コオロギの翅にはヤスリの様な細かい凹凸があり、それを高速でこすり合わせることで美しい音色を奏でているのです。
ササキリの他にも、地面からは「リーリー」「リ、リ、リ」とエンマコオロギやモリオカメコオロギたちの合唱が響いてきます。頭上の木々からは「フィリリリリ」と別の声が聞こえてきました。こちらはクサヒバリでしょうか。森は個性あふれる「虫の声」でいっぱいです。
西欧では「虫の声」はただの騒音で、気がつかない人も多いそうです。街中で働いていると忙しい日々に季節を忘れることもありますが、ふとした時に「虫の声」に耳を傾け、日本の秋を感じるのも乙なものです。
管理でよみがえる森の動植物たち
今年の春から行われている、藪の刈り払い実験。初夏に訪れた時、刈り払い跡地には小さな芽生えがたくさん顔を出していましたが、その後、どうなったでしょうか。
初夏と比べると、緑の量がだいぶ増えたことに気づきます。ササやエゴノキなどの樹木が、切られた株の根元から盛んに枝葉を伸ばし、一気に再生してきたようです。
地際をじっくり観察すると、何の植物なのかがわからないほど小さかった芽生えが、だいぶ大きくなっていました。イチゴのような葉をしたミツバツチグリ。紫色の脈が目立つヤクシソウ。どちらも来年にはあざやかな黄色い花で森を彩ってくれるでしょう。他にも、メヒシバやオカトラノオ、アザミ類などの野草や、カラスザンショウ、ヌルデといった低木がすくすくと育っています。
ここで紹介した植物たちは、いずれも明るい環境を好むものばかり。刈り払いのおかげで、成長できる環境が整ったのです。ただしこのまま放置すると、ササや樹木が成長して数年もせずに暗い藪に逆戻りです。藪に戻さないようにするには、草刈りを続けることが欠かせません。草刈りをすると植物は一時的に減りますが、明るい環境を保つことで、長い目で見れば生物の多様性を守ることにつながります。ゆたかな森を守るため、これからも森の管理を続けます。


森の落とし物~栗が大豊作!~
9月の半ば、森では早くも実りの秋が始まっていました。この時期、目立つのがクリの実です。高尾100年の森では、広場の入り口や周遊道の途中にクリの木が点在しているので、どこにクリが落ちているか、宝探し感覚で栗ひろいを楽しめるのは、農園での栗ひろいとの違いです。
ただ森のクリの木の下には、イガはあっても丸々とした実は意外と落ちていません。「あった!」と思っても、中身がなかったり、ひしゃげた皮だけになっていたりして、落胆することもしばしばです。山のクリは少し小さめですが、味は濃厚でとても美味。人間が食べても美味しいのですから、森の動物にとってはご馳走です。リスやネズミは落ちた実を持ち去り、イノシシは丸ごと口の中に入れてかみつぶし、中身を食べた後に皮を吐き出します。誰かが管理をするわけではない森での栗ひろいは、野生動物との競争なのです。
動物にまだ見つけられていないクリを皆で探し回った結果、どんぶり一杯ほどのクリが集まりました。拾ったクリの実はスタッフが栗ご飯と甘露煮に!小ぶりな栗の皮むきには少し苦労しましたが、かわいらしい実の中に甘味がギュッと詰まっていて、動物たちがこぞって食べるのも納得の味でした。


