これからが寒さ本番。冬には冬の森の楽しみ方

森のお便り

2019年 冬

正月休みが終わり寒さのピークが近づく小寒のころ、高尾100年の森に出かけました。すると、何かが変です。例年なら地表に林立する霜柱は全く見当たらず、冬眠から目覚めてしまったのかチョウが飛んでいました。このあと急に寒くなったら森の動植物は大丈夫なのか心配になってしまいますが、暖かく晴れた日は冬の森を快適に歩くチャンスでもあります。

今年の冬は、これからが本番。冬ならではの楽しみを探しに、森へお越しください。

管理でよみがえる森の動植物たち「氷の花をつける植物たち」編

枯葉が舞う高尾100年の森に、ある花を探しに訪れました。「冬なのに花が咲いているの?」と思うかもしれませんが、今回のお目当ては一風変わった「氷の花」。茎から噴き出した水分が薄いレースの布のように氷の結晶となり、花のように森をかざります。寒空の下で凛としたかがやきを放つ氷の花には、寒さを忘れさせるほどの趣きがあります。

しかし今年は全国的な暖冬で、この日も八王子は最高気温14℃と春のような暖かさ。ニリンソウがちらほらと花を咲かせていたほどです。これも温暖化の影響なのでしょうか。昨冬カシワバハグマの氷の花を観察した間伐地や林縁部でも、今年はまったく姿が見えませんでした。

今回は残念でしたが、これから寒くなってくれば氷の花を観察するチャンスです。冬ならではの出会いを求めて、森に出かけてみませんか。

今冬のカシワバハグマ(左)と氷の花をつけたカシワバハグマ(右、2019年01月23日撮影)

郷土の文化と森の生き物たち「縁起物の植物たち」編

新年を迎えるにあたり、みなさんはどんな準備をしましたか。かつて高尾100年の森の周りの集落では、神棚をつくってもちをお供えし、「歳神様」をおまつりしたそうです。

棚の飾りには森で採れた植物が使われますが、そこにはいろいろな意味が込められています。例えば、春になると若葉に後を託すようにして古い葉を落とすユズリハには、「家が代々受け継がれて繁栄するように」という願いが込められています。また鏡もちの下に敷くウラジロには、葉裏の白さに関連させて「後ろ暗いことがないように」という意味があります。

ヤブコウジやマンリョウも縁起がよい植物。青々とした葉の間から顔をのぞかせる赤い果実は、陽の光に照らされて冬枯れの森を彩っています。紅白を縁起のよい色とする日本の正月を飾るのに、ぴったりな植物です。

森の植物に感謝と願いを込めて、昔の人たちは自然とともに新年を迎えていたのですね。

ユズリハ
マンリョウ
ヤブコウジ

森の食材図鑑「ジビエ食材 イノシシ肉」

2020年、「亥」から「子」へと干支が代わっても、森のイノシシ達はあいかわらず元気です。ミミズや植物の根を求め、森のあちこちで土を掘り起こした跡が見られます。なかには森を出て、里に出没するイノシシもいるのだとか。

増えすぎると困りものの野生鳥獣ですが、最近ではこうした動物を捕まえて、ジビエの食材として利用する機会が増えてきました。豚より赤味が強く「ぼたん肉」とも呼ばれるイノシシの肉は、日本のジビエ食材の代表格。ドングリなどの森の恵みをたっぷりと食べ、栄養をたくわえた初冬のころが一番おいしいと言われています。

その肉で豚汁ならぬイノシシ汁を作ってみました。お味はというと…

イノシシの肉
イノシシ汁

高尾100年の森で見つけた「モテたい生き物」

尾根道を歩いていたら、たくさんの傷がついた木を発見!ひょっとしてクマ?と一瞬ドキッとしましたが、これはシカが角を研いだ跡のようです。ニホンジカはオスだけが角を持っていて、毎年生えかわります。夏の終わりに角が伸びきると、樹木でこすったり泥をつけたりして角をみがきます。

なぜ雄は角を研ぐのでしょうか?それはなんといっても「異性にモテたい」からです。秋、雄たちはお互いに強さをアピールしますが、そのとき大事なのが角の立派さ。大きくて立派に磨かれた角を見るだけで、小さな角の雄は降参してしまいます。ケンカをするのは、外見で勝負がつかない場合だけ。その結果、勝ち残った雄はなわばりを作り、多くの雌を囲いこみます。

雌を巡る雄同士の争いも冬になるまで。繁殖期が終わると雄同士、群れて暮らすようになります。異性をめぐるケンカの後は、すっきり仲直り。なんだか青春ドラマみたいですね。

角研ぎ跡