初夏の森でフレッシュな生き物たちに出会おう!

森のお便り

2021年 夏

梅雨に入りそうで入らない6月初旬の高尾100年の森。春から夏へと季節が移り変わるこの時期は、生き物たちの姿もバラエティに富んでいます。青々とした葉が茂らせるとともに、エゴノキやマタタビの花が白く森を彩り、ヤマグワやキイチゴの果実が赤や黒紫に熟します。そして豊富なエサをもとに、サルや鳥、昆虫など、森の動物たちも次の世代を育てています。

生命あふれる森のドラマを観に、森を訪れてみませんか。

森の音図鑑~初夏~

「ホーホケキョ、ツツピーツツピー」。初夏の森にこだまする鳥たちの声にまじって、「クゥ、クゥ」という声が聞こえてきました。しかも森の奥からこちらに向かって、少しずつ近づいてくるようです。やがて木の枝が大きく揺れたかと思うと、「バサバサッ、バキッ」と音をたてながら十数m先のこずえにニホンザルが姿を現しました!

小さな子どもから大人のサルまでが「クゥ、クゥ」と鳴きかわしつつ、木の枝やツルにつかまり、次々に移動していきます。最後に私たちの前に現れた数頭は、相手にちょっかいを出して追いかけっこをして遊んだりして、ゆっくりと移動しています。まだまだ遊びたい、若いサルなのでしょうか。その時、少し遠くから「ホウッ」と響く声が聞こえたかと思うと、遊んでいたサルたちがいそいそと移動を始めました。先に行った仲間から「早くおいで」と呼ばれたのかもしれません。

生き物観察は目に頼りがちですが、動物たちの心をもっと深く感じるためにも、これからは声や音にも注目したいですね。

管理でよみがえる森の動植物たち

4月、佐川急便社員の有志により森の管理作業が行われました。前回のお便り※1でご紹介したうっそうとした藪は刈り払われてスッキリし、地面に太陽の光がさんさんと降り注いでいます。

これからどんな変化が起きるのか楽しみだと思っていたら…、すでに変化の兆しが始まっていました!遠目からはわかりませんが、いろいろな植物の芽生えが地表に顔を出しています。まず目についたのはムクノキやヌルデといった木々の芽生え。「ようやく明るくなった」と言わんばかりにピョンと立ち、葉を広げています。ほかにも、タチツボスミレやイネ科、さらには小さすぎてなんだかわからない草花の芽生えが、たくさん顔をのぞかせていました。

こうした植物のタネはどこから来たのでしょうか?刈り払った後に飛んでくるものもありますが、じつは土の中にはたくさんの植物のタネが眠っていて、自分が成長できる環境になるのを今か今かと待っているのです。そんなタネたちにとって、藪の刈り払いは絶好のチャンス!背の高いササや低木がいなくなったことを、土の温度の変化などから感じ取り、一気に芽生えてきたのです。

気温が上がり雨も多くなるこれからの時期は、植物にとって絶好の成長期。次に行ったときには、どんな姿を見せてくれるのか、今から楽しみでなりません。

左は切り開かれた藪、右は残された藪
刈り払われた場所で見られたさまざまな芽生え

森の落とし物~落とし文~

最近、文字を書くことが減っていますが、今も昔も手紙は自分の想いを相手に届ける大切な手段です。かつては、人目をはばかる内容の手紙を渡したい人の通り道などに落として拾わせる、「落とし文」という方法もあったそうです。SNSやメールが普及する現在では、考えもつきませんね。高尾100年の森では、毎年この落とし文が見られる場所があります。とは言っても作ったのは人ではなく、小さな昆虫。その名もオトシブミです。

オトシブミの落とし文は、木の葉を巻いたもの。中には卵が産みつけられていて、ふ化した幼虫は葉を食べて育ち、成虫になって出てきます。いわば、葉っぱでできたゆりかごです。このゆりかごに何の葉を使うかで、オトシブミの種類がわかります。森の落とし文にはキブシの葉が使われていたので、ウスモンオトシブミのゆりかごだと推測できます。

キブシの葉はスマホの画面にちょうど収まる程度の大きさですが、体長1cmに満たないオトシブミの母親にとっては大物です。人間感覚でいえばテニスコート一面分のカーペットを道具なしで巻くようなものですから、結構大変な作業ですよね。2016年の森のお便り※2に登場したヒゲナガオトシブミの場合、1時間ほどかけてようやく一つを完成させていました。葉の上をいきつ戻りつしながら葉を二つ折りにし、端からていねいにクルクルと巻き上げる、丁寧な仕事ぶりには感服します。

人の落とし文が想いを伝えるのと同じように、森の落とし文にも母親の想いが詰まっているのですね。

キブシの葉が巻かれた落とし文(ウスモンオトシブミ)
葉を巻くヒゲナガオトシブミ(メスの背中にオスがのっている)