うららかな陽だまりの森で、生き物たちの新生活をクローズアップ!

森のお便り

2020年 春

新入生や新入社員。春は新しい生活がスタートする季節ですが、森の生き物たちにとってもそれは同じ。地面からクルクルと巻いたゼンマイが顔をだし、固く閉じていた木々のつぼみからは若葉や花がこぼれ出し、うららかな春の日を浴びて冬眠から目覚めた虫たちが飛びまわっています。

高尾100年の森は、まさにいまが春本番。生命の息吹を感じる出会いをお伝えします!

管理でよみがえる森の動植物たち「ニリンソウ」編

日に日に暖かくなる森の中。沢沿いの陽だまりが白く可憐なニリンソウの花に覆われていました。その景色に見とれていると、かわいい毛玉のようなビロードツリアブが飛んできました。花をよくみると、気温が低くて動けないのか花の上でクモがジッとしています。さらには、ムラサキシジミやハエ類などがひなたぼっこをしていました。パラボラのような形の花は、陽を集めるので周りよりも暖かいのだとか。虫たちにとってニリンソウは、コタツのような存在なのかもしれません。

早春の虫たちの憩いの場であるニリンソウですが、スギや低木のアオキが茂る林ではあまり見かけません。私たちの目を楽しませ、早春の虫たちの憩いの場となるニリンソウ。今後も残していくためには、樹木や低木を適度に切ることもときには必要なのです。

ニリンソウ
ニリンソウとビロードツリアブ
ニリンソウとクモ
ニリンソウとムラサキシジミ

森の落とし物~桜の花~

山笑う季節。ヤマザクラの花と新芽が、森をやさしいさくら色に包み込みます。青空を背景に花を撮ろうと桜の木に近づいてみると、舞い散った花びらのなかに、まるごと落ちた花が混ざっていました。ふつう花びらだけを散らせる桜の花が、なぜ丸ごと落ちているのでしょうか。

風などで自然に落ちる場合もありますが、桜の木に次々とやってくる鳥たちがあやしげです。桜の木に来たヒヨドリの行動を見ると、花に顔をうずめ、クチバシを花粉まみれにしながら蜜を吸っています。しかし花は落としません。次に来たのはシジュウカラ。なんと花をちぎって落としています!今日はいませんでしたが、スズメも同じことをします。花の蜜が好きなのに舌が長く伸びないので、小鳥たちは花をちぎって吸うしかないようです。花を丸ごと落とす犯人は、蜜を吸う小鳥たちだったのですね。

エサの少ない冬がやっと終わり、いっせいに咲きはじめた花は、鳥たちにとって久しぶりのごちそうです。桜の花を待ちわびる気持ちは、私たち人間も小鳥たちも同じですね。

満開のヤマザクラ
ヤマザクラの木の下に丸ごと落ちていた花と花びら
花のうらのがくを切り取られたヤマザクラ
クチバシをソメイヨシノの花粉で黄色く染めたヒヨドリ

森の香り図鑑~春~

尾根道をのぼる途中、つやつやとした葉がしげる低木に、かわいらしい花が咲いていました。ミカンの仲間のミヤマシキミです。鼻を近づけてかいでみると、甘くてとってもよい香り!「さわやかな芳香」とか「ラベンダーに似ている」など、みんなからの評価バツグンです。

さらに尾根道をのぼっていくと、また強い香りがしてきました。しかし今度の香りはちょっと変わりもの。「ガス臭い」とか「袋ラーメン(塩味)の粉末スープの匂い」など、人によってとらえ方がだいぶ違います。花の正体はヒサカキ。仏壇にお供えすることでも知られるこの木は、変わった香りでハエ類をおびき寄せ、花粉を運んでもらいます。

私たち人間の嗅覚は、記憶と強く結びついているのだとか。そのため、どんな経験をしてきたかによって、同じ香りでも感じ方は人それぞれ変わります。ヒサカキの香りからラーメンを連想した人は、ラーメンが大好きなのかもしれませんね。さて、あなたはどうでしょう?

ミヤマシキミ
ヒサカキ