魅力スポットと五感を使った生き物探し

森のお便り

2023年 春

やわらかな黄緑色の新緑につつまれた森の中。木々の間から春の陽ざしがさし込み、光と影のコントラストがとても美しい季節です。花も虫も鳥も一気に活発になり、とてもにぎやか。春は生き物たちが生命をつなぐ季節です。今年はどんな生き物たちと出会えるでしょう。

動物が集う森の魅力スポット

森の小道で何かが動く気配が…。近寄ってみると、動物のフンが動いています!なぜフンが動いているのだろう?と目をこらして見ると、動いていたのはにぶく光る虫たちでした。この虫たちはセンチコガネと呼ばれるコガネムシの仲間。「雪隠(せっちん)」と呼ばれたかつてのトイレにちなんだ名前だそうです。

なぜそんな名前が付けられたかは、小道で見つけた虫たちを観察するとよくわかります。センチコガネたちは頭を突っ込み、フンを食べているようです。きたないと思うかもしれませんが、センチコガネたちは健全な森を保つための大事なキーパーソン。食べられたフンは細かくなって分解が進み、植物の栄養となって再び生態系の中を循環します。さらにこの虫たちは、地面にフンを埋め込み卵を産みます。するとフンの中に含まれた種子も一緒に地中に埋まり、栄養たっぷりの土で次の世代の植物たちと虫の幼虫たちが育っていきます。センチコガネは森の掃除屋であり、次世代を育てる生命の運び屋でもあるのです。私たちが汚いと思うフンですが、センチコガネの働きで森の大切な魅力スポットになっています。

イタチのフンに潜り込むセンチコガネの集団
イタチのフンに潜り込むセンチコガネの集団
センチコガネ
センチコガネ

五感で発見!生き物たちのなぜ?
~キラキラするもの~

森の小道を歩いていると、足元から飛び出したのはキラキラ光る生き物。前に歩くたびにその生き物は数メートル先に飛んでいき、地面に降りては、また飛んで。そんな動きをくりかえすこの虫はハンミョウです。人の歩く先々へ走ったり飛んだりするので、そのしぐさから呼ばれた名前が「道おしえ」。昔から人との関わりがあったんですね。さらに近づいてみたら、ピョンと日陰の道の上に…。ハンミョウの姿はなんとか確認できましたが、今度はちっともキラキラしません。光が直接あたっていないと、体は黒っぽく見えてしまいます。なぜなのでしょう。ハンミョウの体の表面は、実は色素をもたない構造色。色がついているのではなくて反射することで、いろんな色に見えています。まるでシャボン玉みたいですね。

ハンミョウが狩りをする場所は林道や農道など開けた道が多いことと関係してそうです。開けた道は、まわりからとても目立ってしまう場所。そのためトカゲなどから襲われにくいような派手な輝く色が脅かすのに役に立ちそうです。一方で小さな昆虫を狩る肉食の昆虫なので、獲物のハエなどに気づかれにくいことも必要なのでしょう。これなら、木や草の陰から目立つことなく、獲物を狩ることができそうです。陽の光で不思議な色を放つ小さな狩人、ハンミョウ。森の人気者になるかもしれません。

ハンミョウ(後ろから)
ハンミョウ(後ろから)
ハンミョウ(前から)
ハンミョウ(前から)

管理でよみがえる森の動植物たち

木々が伐採されて3年目の春です。間伐と草刈により、ずいぶんと明るい森になりました。地面に一年中陽がよく当たるようになった森では、暖かくなって、さまざまな植物が育ちはじめています。最も目立つのは草刈の後にあちらこちらに咲くクサイチゴの花。白く目立つ花には花粉や蜜を求めてたくさんの昆虫がおとずれます。まずやってきたのはヤブキリの幼虫。成虫は主に樹上で生活しますが、幼虫の時代は草花の上によく見られ、花粉や花弁を食べています。花の中に潜り込んでいる茶色の昆虫はクサイチゴが大好きなキスイモドキ。クサイチゴが多く咲くようになった森ではこれから常連客になっていきそうです。

林で咲く花の種類も増えてきました。青い花はフデンリンドウ。今年、花を咲かせているのは数個ほどですが、来年、再来年と増えていってほしいですね。紫色の花を咲かせているのはカキドオシ。日当たりの良い適度に湿った土地を好む植物で、森にしみ込んだ雨がたまりやすい斜面の下のほうに広がって咲いています。もうひとつ紫色の花はキランソウ。日当たりが良く、水はけが良い場所を好み、地面をはうように広がっています。

多くの花とともに虫たちが訪れる林になり、林の管理の成果が出てきています。今年の夏には新たな花と昆虫との出会いが、楽しみですね。

クサイチゴの花に来たヤブキリの幼虫
クサイチゴの花に来たヤブキリの幼虫
クサイチゴの花にきたキスイモドキ
クサイチゴの花にきたキスイモドキ
フデリンドウの花
フデリンドウの花
カキドオシの花
カキドオシの花
キランソウの花
キランソウの花