山眠る季節。冬ならではの生き物たちの姿とは?

森のお便り

2022年 冬

木々が葉を落とし、すっかり冬木立となった高尾100年の森。冬の森にはほとんど生き物がいない、そう思っている人も多いのではないでしょうか。しかし見通しのよくなった冬の森では、今までかくれていた生き物たちを見つけやすく、冬にしか出てこない生き物にも出会えます。そんな生き物たちの冬の暮らしを探して、高尾100年の森に出かけてみませんか。

自分で語ろう森の気持ち「すがすがしい冬の白」

朝の冷え込みが日に日に厳しくなってきた森の中。どのような景色がひろがっているでしょうか。まず地面をながめてみると、太陽の光を浴びて白くすがすがしく輝やく氷の柱、霜柱を見つけました。冬ならではの自然の風物です。遊歩道など落ち葉が少なく土が露出したところは、寒気の影響を直接受けやすいのでしょう。白い霜柱がすっくと立ちあがり、いくつも重なって並んでいました。

森の中をながめてみると、風が吹くたびに左右に揺れてキラキラと光る白いかたまりが見えました。これはカシワバハグマの果実の綿毛。褐色の冬木立の森で、白い綿毛がよく目立ちます。冬の寒い日の中でも、ぴんと真っすぐに天に向かって伸びた姿はすがすがしくもあり、優雅でもあります。

冬の森で気づいた霜柱やカシワバハグマの白。彩りのすくない季節だからこそ、太陽の光を浴びてきらめく白に心を揺さぶられるのかもしれません。次はどんな白に会えるのか、冬の森散策を続けたいと思います。

地面にできた霜柱
地面にできた霜柱
綿毛を付けたカシワバハグマ
綿毛を付けたカシワバハグマ
カシワバハグマの果実の拡大
カシワバハグマの果実の拡大

森の中を得意に飛ぶわけは?「林床をヒラヒラと飛び回るフユシャク」

木々が葉を落とし、やわらかい小春日和に包まれた林の中で、あちらこちらでひらひらと飛んでいる小さな虫がいます。その光景は、まるで小さな枯葉が無数に舞っているよう。冬にだけ出現する蛾の仲間、フユシャクです。

フユシャクのなかでも真っ先に出現する種がクロスジフユエダシャクです。なぜクロスジフユエダシャクは、わざわざ寒い冬を選んで出てくるのでしょうか。じつは飛びまわっているのは雄だけです。翅(はね)が退化してしまった雌は木の幹などに止まり、雄が来るのをじっと待つのですが、何もしていないわけではありません。お尻の先からフェロモンを出して、雄にアピールをしているのです。葉が落ち、広い空間ができた冬の森は、雌を求めて遠くまで飛び回りやすいメリットがあります。天敵が少ないのもメリットですが、日中はシジュウカラやルリビタキなどの鳥に襲われることも多々あります。雌に出会えるのは、幸運な雄だけなのです。

森の中のコナラの幹で、そんな幸運な雄を見つけました。二匹はお尻をくっつけあっています。右下の写真、下側の翅のある方が雄、上側の翅のない方が雌です。来年の冬はこのペアの子どもたちが、寒中の舞いを見せてくれるに違いありません。

落ち葉で休むクロスジフユエダシャクの雄
落ち葉で休むクロスジフユエダシャクの雄
クロスジフユエダシャクの雄(下)と雌(上)
クロスジフユエダシャクの雄(下)と雌(上)

管理でよみがえる森の動植物たち

木々が伐採されて2年目の冬。草も枯れて地面には落ち葉が目立つようになりました。冬の森の中では昆虫やクモの姿もほとんど見えません。そんな冬枯れの地面に緑の葉をはりつくように広げ、存在感を示しているのはノハラアザミです。地面にぴったりと葉をくっつけることで、太陽で暖まった地面の熱を受けやすくしているそうです。その横では地面に半分埋もれたように咲いている花を見つけました。こちらはカンアオイ。他の植物が眠っている冬に花をつける珍しい植物です。ササや低木が密に茂る環境では、こうした地際に生きる植物たちは姿を見せてはくれません。

林縁も見てみましょう。明るい草原の方に向けて盛んに伸ばした枝先に、とんがった冬芽(葉芽)と丸い冬芽(花芽)をつけている低木はクロモジです。まだ寒い早春から咲き始めるため、すでに花芽は膨らみはじめています。丸くハート形をした葉を持ったつる植物のキジョランも、からみやすい低木が多い林縁に見られました。キジョランの葉の裏では、小さなアサギマダラの幼虫が冬越しをしています。こんな小さな体で寒い冬を乗り越えられるか心配になってしまいます。

森林管理によって明るいところを好む植物だけでなく、林縁環境を好む生き物たちも増えてきました。次のシーズンは、どんな生き物たちに出会えるでしょうか。楽しみですね。

越冬するノハラアザミの葉
越冬するノハラアザミの葉
クロモジの冬芽
クロモジの冬芽
カンアオイの花
カンアオイの花
キジョランの葉
キジョランの葉
アサギマダラの幼虫
アサギマダラの幼虫