しずかな冬の森散歩。あっ!と驚く出会いがあるかも?

森のお便り

2020年 冬

冬はただでさえ家にこもりがち。今年は新型コロナウイルス感染症の影響でほとんど出かけていない人も多いのではないでしょうか。2月に入った晩冬の森は、一年で最も彩りの少ない時期を迎えています。しかし視点を変えてみると、さむい冬の間をじっと忍んで春を待つ生き物たちの営みに気がつきます。

冬の生き物と同じく、私たちも新型コロナウイルス感染症収束までは忍ぶ生活が続きますが、はれて森を楽しめるようになるまでは「森のお便り」でバーチャルな森へのお出かけをお楽しみください!

管理でよみがえる森の動植物たち「カンアオイ」編

「この紋所が目に入らぬか」でおなじみの葵の御紋。そのモチーフとなった植物が何だかご存じですか?それはフタバアオイという小さな草。この森でも近縁種のカンアオイを見ることができます。

フタバアオイは冬に葉が枯れますが、寒い時期でも葉を枯らさないことからカンアオイの名がつきました。地面から直接咲いたように見えるカンアオイの花はとても地味。しかも落ち葉に埋もれて目立ちません。ただでさえ虫の少ない冬に咲くのに、そんな目立たない花の花粉をだれが運んでくれるのか不思議ですが、キノコバエ、ナメクジやワラジムシなどが花粉を運んでくれているようです。また春の女神といわれる美しい蝶「ギフチョウ」の幼虫は、カンアオイの仲間の葉だけを食べて大きくなります。地味な草ですが、さまざまな森の虫たちを支え、支えられながら生きているんですね。

しかしそんなカンアオイも、最近は数が減ってしまいました。雑木林が放棄されて常緑樹の森となったり、林の中にササが茂ったりして、カンアオイが暮らせる明るい雑木林が少なくなったためです。地味だけど森の虫たちとともに生きているカンアオイを守るためにも、森の管理が大切です。

カンアオイ(葉っぱ)
カンアオイ(花)

森の落とし物~森へ還る~

きれいな鳥の羽が落ちてないかな。そんなことを考えつつ森を歩いていた時、ふと白い枝のようなものが目に入りました。何だろう?と思って近寄ると、その正体にはっと息をのみました。大きな骨です。

「まさか人骨…いや、短くて太いから違うな…」などと思いながら周りを見渡してみると、ひづめを発見。「ひょっとして、イノシシ?」と思い、一緒にいた皆で手分けをして周りを探すと、あばらや頭の骨を発見!もう間違いありません。牙があるのでオスのイノシシのようです。

正体がわかり少しホッとしたので骨をじっくり眺めてみました。すると、2本の骨が並行している独特な形に気がつきました。この形、どこかで見覚えがあります。骨折したときに病院でみた自分の腕のレントゲン写真です。そうなると関節部分はひじ、その先は上腕(二の腕)かな、と見当がつきました。

イノシシと人間は同じ哺乳類。そんなこと当たり前と思っていましたが、自分の骨とイノシシの骨との共通点を見つけたことで、イノシシと人間は近縁だという実感がふつふつと湧いてきました。森の動物と自分とのつながりを教えてくれる、そんな森の落とし物との出会いでした。

前肢の骨

森の香り図鑑~ヒノキ~

節分が過ぎると、花粉が気になり始めますね。この森にもスギやヒノキが植えられています。いまや厄介者として扱われることが多くなったスギやヒノキですが、もともとは建築材として利用するために植えられたもの。特にヒノキは、「日本書紀」に宮殿はヒノキで作れ、と書かれているほど優れた材がとれる木です。抗菌作用を持つ精油成分が含まれ、劣化しにくく香りのよい材となります。

せっかく森にたくさんヒノキがあるので、「らんびき」という道具をつかって香り成分を取り出してみましょう。しくみは簡単。ヒノキの枝葉と水を入れて火にかけると、その蒸気と共に精油成分が水滴となって溜まります。1時間ほどで、大さじ三杯分くらいの蒸留水がとれました。香りはどうでしょうか?鼻に近づけると、ほんのり清々しい香りがします。一緒にいたスタッフからは「スッとする」「木のにおい」といった声があがりました。

昔の人たちが苦労してせっかく植えた木です。香りを楽しんだり、キャンプで葉を焚き付けに使ったり、いろいろな役に立てていきたいものです。

ヒノキの葉
(左)らんびき(道具)にヒノキを詰めた様子、(右)香り成分を取り出す様子