生命の息吹を感じる早春の森

森のお便り

2017年 春

暖かい春の日差しとまだまだ寒い冬の空気が変わり訪れる早春。春本番を待ちきれない生き物たちが、森のなかではすでに活動を始めています。
木もれ日の下では、ニリンソウやスミレ類の花がさき始め、いち早く目覚めたツリアブが花から花へと飛び回っています。

たくさんの森の生き物を探しに、森へ出かけてみましょう。

変な形の芽生えがニョキニョキ生えているよ。何だろう?

森のなかの陽当りのよい場所で、つくしのようにニョキニョキと生えている植物を見つけました。何という名前かわかりますか?

ヒントはこの芽生えの形です。
地面からまっすぐに柄(え)をのばし、その先から細く先がさけた葉を何枚も放射状にのばしています。
この姿から、昔の人は破れたカサを連想して「ヤブレガサ」という名前をつけました。なかなかのネーミングセンスです。
他にも、この森にはアブラチャン(油分などが多い)やオニシバリ(樹皮がしなやかでオニもしばれるという意味)など、面白い名前を持った植物が生えています。

散策中に見つけた生き物に、ぴったりの名前を自分で考えてみると、森の生き物たちへの愛着がいっそう深まりそうですね。

まだ寒いのにもうチョウが飛んでいるよ。冬をどうやって乗り越えたのかな?

茶色とオレンジ色の模様のハネをヒラヒラさせて、テングチョウが早春の森を飛び回っています。
森の担当者の手には、るり色のきれいな帯を持ったルリタテハがやってきました。

早春に真っ先に現れるこれらのチョウたちは、寒い冬をどうやって乗りこえているのでしょう?

実は、テングチョウたちは秋に羽化して成虫になり、雨風のあたらない場所で冬を乗りこえます。
うえの写真のルリタテハはよく見ると後ろばねがボロボロですが、これはきっと冬越しの間にすり切れてしまったのでしょう。
一方、幼虫や卵で冬を越す種もいます。2016年冬のお便りで解説したアサギマダラは、幼虫で冬を過ごすため早春の時期に成虫は見られません。

春にいち早く飛び回るチョウたちは、チョウの姿で冬の寒さに耐えていたのですね。

春は山菜の季節だけど、どれが食べられるの?

新芽や花はやわらかくみずみずしくて、どれも食べられそうに見えます。
うえの写真は春の山菜の代表格であるタラの芽(タラノキの新芽)です。大きなトゲのある枝についた新芽は、他の木とまちがえることはないでしょう。
他にもワラビやゼンマイ、ミツバなど、さまざまな山菜がこの森に生えています。

ただし、毒を持った植物もあるので注意が必要です。
例えばうえの写真の植物は、林道わきで変わった花をさかせているミミガタテンナンショウ。この植物はサトイモの仲間ですがイモも葉も実も有毒です。
尾根道沿いに多いアセビは漢字で「馬酔木」と書きますが、これはアセビを食べた馬が毒にやられてフラフラすることからついた名前です。

美味しい山菜を楽しむためには、植物の見分け方や毒の有無を知ることが不可欠です。

環境まめ知識 スギと花粉症

この季節、スギは見たくない!という人も多いかと思います。
多くの人を悩ませる花粉症ですが、昔はなじみのない病気でした。最近になって増えてきたのはなぜでしょうか。

スギは建築材として昔から使われてきました。戦後、高度経済成長期(1960年代前後)になると日本中で集中的に植えられ、国土面積の約12%にまで急拡大しました。
特定の時期に集中して植えられたことで、日本のスギ林にはいわば団塊(だんかい)の世代ができてしまったのです。現在、その世代が成熟して大量に花粉を飛ばしていることが、花粉症患者が増えた最大の要因です。
花粉の量を減らすためには、スギ林を他の樹種が生える天然林に変えていくことや、スギを植える年をずらして林をつくるなど、さまざまな対策が必要です。

100年先の森を目指して、高尾の森の管理も続けていきます。